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Posted on 2023.10.25

PLAZA “WELL” HOUSE 100歳生きる時代

ぐいっと、力強い握手する右手、はつらつとした発声と艶やかな肌。
御歳102歳、水墨画家、高野加一さんのファーストインプレッション。
10月に沖縄で初めて開催された「高野加一展」でのこと。
100年生きる時代の輝きに触れたいと、取材を申し込んだ。

Wellな人、Roger’sを着る
高野加一 102


102歳の水墨画家。
1921年新潟県長岡市生まれ。
戦後、上京し自動車整備工場を営む。
1986年 65歳で水墨画を始める。
2013年 92歳で日展初入選「太陽フレア」。
2018年 97歳で親日春展初入選「天泰の舞」。
2021年 100歳で親日春展入選「幻奏の舞」、日展入選「月下のイリュージョン」日展初100歳での入選を果たす。
2023年 高野加一初沖縄個展をプラザハウスで開催。

 
 

———沖縄での個展を終えて感じたこと
こんなにも愛に溢れた個展は初めて。
訪れた沖縄の方々はまるで久しぶりに再会した親戚のように、笑顔で近寄ってきてくれて握手を求める。
さらにはハグまでも。東京の展示会はもっとかしこまった感じ。
こんな素敵な日本人はどこいっても見つからない。心からの感動だった。
 
———長寿1 - それはずっと考えることがあること
1921年、新潟県長岡市生まれ。父の故郷である山古志村は自然に溢れた山あいの村。学校が休みになると決まって村に預けられ、地元の子供たちと一生懸命遊んだ。
おもちゃなんてなく、自分たちで工夫して遊び道具に変身させた。
豪雪地帯でどこにでも転がっていた薪を切り、コマを使ったり、スギの実を鉄砲の玉がわりに戦争ごっこをしたり。
誰もが貧しい時代、いつもどうしたら遊びになるのか、考えていた。
14歳で士官として出征。終戦まで、中国北州の軍事工場鉄道部門所属となる。
その頃、自動車、戦車、鉄道のエンジン開発を担っていたことで、将来、自動車産業に携わろうと決意。
戦後、長岡から上京し、親戚の肉屋を手伝う。活用されていない巨大な冷蔵庫に目をつけ、焼け野原からガラクタを集め、試行錯誤しながらアイスキャンディ作りを成功させる。アイスキャンディを食べたこともなかったにもかかわらず。おそらく東京初のアイスキャンディ屋となった。
そのビジネスは大いに繁盛し、その利益で自動車整備工場を立ち上げる。これまでの技術力、発想力を活かし、界隈で一番の整備工場となる。ベルトコンベヤー式のコンパクトな民間車検場も考案し、全国に普及させた。
  

必死に、考えることが好き。
人生は考えることにある。現在も、見たことのない構図をひたすら模索している。考え続けることが長寿の秘訣なのかもしれない。
 
   
———長寿2 - 家族の女性たちに囲まれ
家族は妻と娘三人に囲まれた黒一点。
作品に関して、歯に衣着せぬ高野家の女性陣との激しいディスカッションは日常茶飯事。それを愛情たっぷりに「バトル」と呼ぶ。娘たちは、高齢の父にも容赦はない。絵画の出来栄えに率直で厳しい意見をぶつけてくる。
絵の師匠になんと言われようとも描き直さないが、家族の「いい絵だね」が聞けるまで、修正し続ける。
「家族に褒められたいんでしょうね」と、こぼれる。
 

 
———絵との出会い
小学3年生まで、絵の時間は苦痛でしょうがなかった。それは、先生たちが下手だと非難するから。色彩や構図、実際の風景とは全く違ったからだ。
山は赤く、実際には存在しない風景も絵の中に登場させてしまう。人とは違う絵を描きたい気持ちは先生には届かなかった。
ところが、4年生の担任となった沖先生は絵を大絶賛。また、自分だけの発想・構図をどんどん楽しむようにと指導。
その時、褒められる喜びを知り、嬉しかった記憶が心の中で生きている。
後に、少年兵を志願した際、身体検査で発覚した色弱。
山を赤く描いたのはそのせいだと思われるが、奇想天外な構図は自身の独創性だったと思っている。
 
 
———65歳で絵を始めるということ
第一線から退き、小学生の頃、褒められて高揚した絵画をもう一度やってみたいと思い始めた。
色弱なので、描くのは水墨画と決めていた。水墨画は白と黒だけの世界。
世に存在しない水墨画を描きたいと強く思う。そんな時、孫が宿題で水彩のマーブリング(マーブル画)を描く様子を見て、その技法を自身の水墨画に取り入れることを思いつき、高野加一流水墨画が生まれた。
本来、水墨画とは「単色」で陰影にこだわり、一枚の写真を切り取ったような現実風景から作家の想いを紐解き、詩的な余韻を残す。
しかし高野流は月夜の空を魚の大群がダイナミックに遊泳したり、ヨーロッパの石造の情景の中にメタリックなバイクのハンドルが描き込まれたり、発想と構図、そしてマーブリングの技法も高く評価されている。それらは全て、頭に降りてくるモチーフであり、高野加一の人生の一片がもたらしたもの。
 
 

  
————絵の持つ力
絵を描いていると、いろんな人に出会う。
個展で出会った人は握手を求める。これまでの握手は単純に手が触れるだけだったのが、絵描きになってからの握手は全く違う。
絵からエネルギーを得た相手から今度は計り知れないエネルギーが戻ってくる。それは絵のエネルギーが幸せを運んでくれるのだ。
だから握手をすると気持ちがいいと、加一さんは言う。
 
 
 
取材 : 仲宗根ゆうこ
hair makeup / stylist : Kumi Toyama
(moon eclipse / g.bardo369)
photographer : UEMAI
assistant : muro(g.bardo369)