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la souvenir

Posted on 2020.03.05

春の風

お話は昨年のこと。
新しいプロジェクトを開始するために一人のコーディネーターを指名した。
彼はスピーディーにこちらの状況を理解し、
必要となるキーマンを私の前に据えた。
驚きの連続。話が早い。切り札がズバリと刺さってくる。
もう少しお話を・・・と願ったら、一緒に旅に出ようと誘われた。
行き先は初夏のカリフォルニア。
ロサンジェルス、パームスプリング、
アリゾナ州に入りフェニックス、スコットデール、
最終目的地は聖地セドナというシナリオ。
純粋に「感じる」旅だという。
ホテルは既にセレクトされている。
これまたズバリと刺さってくる。
レンタカーで移動します、ちょうど相乗りできますよ、と嘘のようないい話。
フライトを調べたら、行くしかないと思わせるお得な運賃。
それではご一緒させていただきます!よろしくお願いいたします!
と返事をし、数日後には彼らを頼りにアメリカ大陸に着地した。

PARKER PALM SPRING
溢れるブーゲンビリアと抜ける青い空。
真っ白い巨大な弓形の花ブロック壁の真ん中に赤い扉のエントランス。
ロビーに入るとモダンなインテリアにハッとする。
ジョナサン・アドラー!
NYを中心に活躍するインテリアデザイナーの表現がそこかしこに。
店頭で商品を通して見てきた彼の世界観が
リアルな空間となって広がっている。
お部屋、家具、アメニティー。回廊、プールサイド、お庭。
窓辺に並んだガラス瓶、レストランのロゴ。
わらわらと飛び交う彼のスピリット。
ヤバイ刺さり方。興奮を通り越して心臓がきつい。
この旅一体どうなるのだろうと困惑しながら、7人の旅仲間の顔が集まった。
互いに自己紹介をすませ、ナパワインにほろ酔い、
白い椅子が円形に並んだ庭で夜空を見上げる。
ちょうど母を亡くしたばかりだから、星がセンチメンタルを誘う。
時間と空間と自然の優しさに体に溜まったいろんなものが
細い光になって噴出して天に上がって行くような感覚にとらわれる。
「大きな劔が背中に刺さりましたねえ」
不思議なことを言う旅頭は、
役割を自然からたくさん授かる旅になると予告する。

道程でドライバーが代わった。
広島県福山市出身。精悍な顔つきで流暢な英語を話す若い実業家。
おかげで目的地が遠くにあっても、車中はいかした時間となる。
沖縄と広島。平和を願う思いは一緒ですね、
広島カープは毎年沖縄にやってきますよ、
そんな世間話を交わしながら旅の時間は私たちを有意義に溶け合わせていく。
ハンドルを持ちながら、自分のプロフィールを笑顔たっぷりに話している彼は
実は壮絶な苦労を経験した様子。
聞きたくても聞くことのできない稀有な体験を耳にできるのは
これこそ有難いお話。
自分を支えた一冊の本があると言う。
教えてと聞くと少しはにかんで首をかしげる。
いろんなことを乗り越え、先代をいたわり、
新たなチャレンジを試みる勇気溢れる美しい人。
旅の合間に立ち寄ったセレクトショップで
僕に何か選んでくださいと声かけられた。
私は迷いもせず、
マゼンダ100%ビビッドなピンクレース地のコットンシャツを手渡した。
試着した姿に店のスタッフも拍手喝采、君にしか似合わないとグーサイン!
みんなご機嫌になって走り始めた車中で彼は本のタイトルを伝えてくれた。
『夜と霧』
ミラクルはまだ続く。