Posted on 2021.11.01
パリに住む大切な人。忘れてはならないプロフェッサー。
艶やかな強さを見せてくれたマダム。
ため息でるほど美しくて、優しくて、グラマーで、ユーモアたっぷりで、
容赦なくおしゃれをして、人々を魅了する。
コスチュームアクセサリーブランド『BABYLONE』のデザイナー兼オーナーであった
Christine Labaan氏。
どうやって彼女を知ったのか、記憶をたどる。
そうだ。東京の帝国ホテルで開催されていた
フランス商談会に出かけた時だった。
通訳の日本人女性が身につけていたネックレスがあまりに魅力的で
どこのブランドですか?と聞いたのが始まりだった。
今度機会があったら紹介しますね、と名刺交換をした。
それからしばらくして、デザイナーが来日しますよ、との連絡があった。
私が通訳しますのでお気軽にどうぞと誘われ上京した。
出会いの時。衝撃だった。
ジャンポール・ゴルチェのブラックドレス。
ピンヒール。輝くブロンド。透けるように白い肌に真っ赤なルージュ。
ホテルのお部屋いっぱいにサンプルを広げ、
フランス語と英語を交え、コレクションの説明をしながら
次々とダイナミックなアクセサリーを彼女自身が身につけ私に披露する。
しかし。日本の女性には大振りすぎる。イヤリングも重たげで長い。
惹かれたはずなのに商品としてオーダーするには躊躇する。
心臓がバクバクして逃げ出したい空気いっぱい。
まるで見透かしたように、日本の女性は小さなアクセサリーが好みよね、と彼女。
気を取り戻し、少ししゃんとして
どんな風にお客様にお勧めしたらいいの?
どんな着こなしを意識したらいいの?
目を見て質問する勇気もなくオロオロしながら、
通訳の女性にすがりつくように過ごした時間。
ネックレスは服の模様、柄と思えばいいのよ。取り外しができる柄。
シンプルな無地の服に、好きなように表情を創ることができるわね。
ほら、こうするとデイタイム、こんな風にするとパーティーよ!
全て自分のスタジオで作っているから、パーツや長さを好みに変えることもできるわ!
スーツケースから工具を取り出し、長めのイヤリングを
私サイズに調整して鏡を手渡すマダム。
わたしたちの物語はそんな風に始まった。
パリに誘われパリに向かう。その度に受けるスペシャルなエスコート。
サンジェルマンに住む彼女の周りはアーティストに溢れ、
夜の時間も楽しくてたまらないから、いつの間にか常宿も近くに。
ある日、沖縄の伝統工芸「漆」のことを話した。
彼女はすぐに興味を示し、チャレンジしたいと申し出た。
夢のような時間。沖縄で彼女を迎える。
彼女のコレクションを披露すると共に、
漆でアクセサリーを創るプロジェクト開始。
インスピレーションは見事に花開き、ユニークな「色と形の漆のパーツ」を、
フランスへ輸出。
完成品として出来上がったネックレスやイヤリングが
『OKINAWA TOUCH』としてパリで発表された。
数年前、彼女はブランドの売却を私に伝えた。
後継者がいないこと、
一番いい時期に手放すこと、
もっと自由になること、
こちらにとってはセンセーショナルな事件を、
とても前向きに話してくれた。
しかし、彼女なきブランドのパワーは瞬く間に消失し、
今はもう存在しない。
ロージャースのアクセサリーコーナーもBABYLONEを失い、
まだ寂しさが漂う。
それでもパリに行くたび私たちは時間を共にする。
かつてスタジオだった場所を改装し、
ミュージシャンの息子とともにアートギャラリーを開設した。
この文章を書いていることを知ったのか、
ついさっき最新の写真が送られてきた。
When are you coming to Paris? As soon as possible of course!
彼女は今もなお、みんなの中心にいる。