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la souvenir

Posted on 2022.03.04

琉球のこころ

すっかり出不精になった重い腰がふわりと上がった。
刻限より早めに目的地へ、これもまた珍しい。
冷たい雨の朝、
なだらかな曲線を描く琉球石灰岩の壁は既に落ち着いた趣。
沖縄県立美術館
琉球びんがた宗家・城間栄順米寿記念「紅の衣」展。
特別展示の魅力も然ることながら
粋な鼎談に遭遇する幸運。
  登壇者
  森口邦彦氏 重要無形文化材保持者(人間国宝・友禅)
  小林純子氏 沖縄県立芸術大学教授
  城間栄市氏 城間びんがた工房 十六代目当主
八年前に工房の当主となった栄市さん、
伝統を守らなければいけない工芸の世界で、何に取り組まなければならないか、
お二人の先生を迎え、想いをめぐらせ、思考を深め、コロナ後の沖縄の染色や伝統工芸、
ひいては社会をどう構築していくかを考える時間にしたいと口火を切った。
わかっていると思っていた「びんがた」を軸に
次々と目の覚める言葉が耳に届く。
花鳥風月、景色は今生を描く。
絵画的な「びんがた」の真逆に
時間の概念を超えた模様を追求する挑戦の話。
仕事をこんなに曝け出した展示をして良いのかなあ、栄市さんのためらいに
大丈夫、また生まれてくるから、とさらりといましめ、
型染めを制約と思わず強みとせよ、と技法を限りなく肯定。
自分たちが良いと思うものが買い手に伝わらないジレンマをどうすればいいのか、
工房で働く若い作り手の質問に
それはあなたの考えることではない。(売り手である自分の仕事の胸に刺さる)
そうでなければ僕の日常も成り立たない。

誠心誠意作るのみ。
鼎談の時間が過ぎるころ、
沖縄の染色の明日に向けて制作に関わる人たちにメッセージをお願いします。
小林先生の問いかけに
森口先生が躊躇う様子もなくすーっと返した。

「琉球のこころ」
むずかしいことは考えず、そう声にだしてください。
沖縄のひとも、そうでないひとも
「琉球のこころ」
毎日、きっとかならず、素直に声にだしてください。
それが文化というものです。

会場にいた神々しい翁が壇上に上がった。
息子の方をポンと叩いて横に座った十五代目は
親父(十四代目)の復興への執念が乗り移った、少しは褒めてくれるかなあ。
千載一遇の喜びとばかりに笑みを浮かべ、
少年のような志を会場いっぱいに振り撒いた。
感極まって手を挙げた女性。
立ち上がり、先生、おめでとうと声を大きくした。
身体全体からその場に在ることへの感謝が伝わった。
宗家のみならず弟子は育ち「琉球のこころ」を形にする。
奇しくも、その展示会が開催される。
春の始まりに紅(いろ)が舞う。